(駐車場そばのベンチで串焼きを食べているプロ角)
プロ角マキコ(以下プロ角)「移動が長いわよ。しかも意味が分かんないわよ。のぞみで名古屋まで行ったあと、それからロケバスで新東名をひた走るって、いったいどういうことなのよ。まさか東京に戻るの? じゃあなんなの、今わたしたちはなんのための移動をしてるの? われわれはただCO2を排出するためだけに生きてるってこと? そうだけど! 生命、畢竟そうだけど! そんなことわざわざ思い知らせなくていいでしょ! どういう魂胆なのよ! このウナギの肝串がなかったら完全にキレてるわよ! 肝串がギリギリ私を社会にとどまらせているわよ!」
(後ろから優香が近づく)
優香(以下優香)「プロ角ねえさん、今年も相変わらず怒ってるでやんすね」
プロ角「あら、スパークリング・サムじゃない! 1年ぶりね!」
優香「優香でやんす」
プロ角「神楽陽子?」
優香「優香でやんす」
プロ角「……あっ、優香ね。そうそう、優香だったわね。なんかもう、芸能の世界の話がすっかり遠くなってしまってて、ごめんなさいね」
優香「そうなんでやんすね。お師匠も実際、もう年も年でやんすしね」
プロ角「コラ! なんですって、浅倉ー!」
優香「せんぱ~い、……って違うでやんす! CXのドラマ違い! ナースのお仕事じゃなくて、プロ角ねえさんはショムニでやんしょ!」
プロ角「あと観月ありさはグータンヌーボじゃなくて後番組のキャサリン三世だったわね」
優香「プロ角ねえさん、話が古すぎて、年齢が露見ロールでやんすよ……」
プロ角「なんですって、浅倉ー!」
優香「それにしてもプロ角ねえさん、ずいぶんおいしそうなものを食べてるでやんすね」
プロ角「これ? そうなの。ウナギの肝串。優香も食べたらいいし、ちりとてちんにも、おみやげで買って帰ってあげたらいいわよ。だけど、ただでさえ年精数がすごそうなちりとてちんぽことっちめちんぽこがこんなの食べたら、強い力が働いて、空が狭いのが収まんなくなっちゃって、第二子まったなしになりそうね。いやだわ、このノーパンしゃぶしゃぶ夫婦ってば。あなたたちには貧乏精で槍クリする気持ちなんてぜんぜんわからないんでしょうね」
優香「……めっちゃ一気に使った。プロ角ねえさん、さすがでやんすね。切れ味はまったく衰えてないでやんすよ」
プロ角「本当? じゃあわたし、芸能界に復帰できるかしら?」
優香「いや、それは無理でやんすけど。プロ角ねえさん、地上波でちんぽこって言ったらいけないんでやんすよ」
プロ角「そっか。やっぱりプロ角マキコプラスみたいなオリジナルの有料配信のプラットホームを立ち上げるしかないのかしらね……」
優香「誰が観んねん、それ」
プロ角「ごっつ世代の松本信者は観るわよ!」
優香「…………」
プロ角「ところで優香、毎年のことだけど、どうして私たち、こんな所にいるわけ? 去年のキャッスルイン豊川に続いて、やけに東海づいてるじゃない。今年の会場はどこなの? これからどこまで行くわけ?」
優香「どこにも行かないでやんすよ。ここが目的地ぞなもし」
プロ角「えっ。この浜松サービスエリア(上り)が? ここが目的地なの? ここが今回の舞台なの? なんで? なんでなんで?」
優香「ザ・たっち!」
プロ角「そう言えば実写版タッチってあったわよね。南ちゃんが長澤まさみなのはよかったけど、上杉兄弟があろうことか斉藤兄弟だったのよね……。『いつでも一緒だった… 三人で描いた夢―― 届けたい、この想い。Nobitattle.』よね」
優香「プロ角ねえさん、あまりにも思ったことをそのまましゃべり過ぎでやんすよ。誰が大コケした20年前の映画のどうでもいいコピーを覚えてるんでやんすか。ひどすぎるでやんしょ。いまティーヴィーショーをやってるんでやんすよ。わかってるんでやんすか」
プロ角「わかってるわよ! 年金って払わなくちゃダメなんでしょ!」
優香「よかったー。わかってたー」
(CM)
プロ角「ねえ優香、唐突なんだけど、スキンケアってどうしてる?」
優香「本当だ。この肝串、滅法おいしいでやんすね。さすがは浜松ぞなもし」
プロ角「ちょっと、聞いてるの? スキンケアについて訊いてるんだけど」
優香「もぐもぐ、むしゃむしゃ……」
プロ角「……なんなの、これ? 孤独のグルメ? モノを食べる時は、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなの? うおォンなの?」
優香「ちがうでやんすよ! プロ角ねえさん、百歩譲ってインスタでやんのはいいでやんすけど、急に番組内で仲良くしている社長の会社で出してるスキンケア商品を会話にぶっ込もうとするのはさすがにルール違反でやんすよ! リメンバー小森純でやんす!」
プロ角「優香、ちがうのよ! そういうんじゃないの。わたし、ぜんぜんお金とかもらってないから! 本当にいいからおすすめしてるの! ただそれだけなの!」
優香「……もぐもぐ……」
プロ角「あと一茂の家の壁に落書きもしてないの! これも信じて! 元マネージャーが勝手にやったの! エドはるみとわたしは悪いマネージャーの被害者なのよ!」
優香「……あー、おいしかった。こんなにおいしい肝串、初めて食べたでやんす。そうだ、こんなにおいしいものを作ってくれたシェフに、お礼を言いにいくぞなもし」
(立ち上がり、歩き出す優香。慌ててついていくプロ角)
プロ角「えっ。うそでしょ、優香。サービスエリアの屋台で買ったものがおいしかったから、シェフに挨拶? いつからそんな人になったの? ヤンジャンでシュレディンガー水着を着てた頃からそんなだった?」
優香「あの頃の水着はシュレディンガーじゃなくて100%三角ビキニでやんす。……さ、着きましたぞい。えっと、シェフは……?」
プロ角「ちょっとシェフ! シェフはいないの? 一流芸能人の優香様が、わざわざ好感度を上げるために来てくだすったのよ! 早く出てきなさいよ!」
???「はーい」
優香「ああ、シェフ。先ほどいただいたこの肝串、とてもおいしかったでやんす」
???「おや、それはそれは。わざわざありがとうございます」
プロ角「ちょっと! なに帽子を被ったまま受け答えしてるのよ! これだから素人は困るのよ! ティーヴィーショーなのよ! 帽子は取って、国民にちゃんと顔を見せなさいよ! 素人にとっては間違いなく一生でいちどの機会よ! 田舎のおじいちゃんおばあちゃんが、近所の人たちに鼻高々になれるわよ! ほら!」
(シェフが目深に被るキャスケットを剥ぎ取るプロ角)
???「あっ……」
優香「えっ」
プロ角「あ、あなたは……!」
(CM)
???「あっ……」
優香「えっ」
プロ角「あ、あなたは……鳥破シェフ!」
優香「鳥破シェフでやんす!」
鳥破シェフ(以下鳥破)「あ、どうも。鳥破です」
プロ角「なんで? なんで鳥破シェフが浜松サービスエリアでウナギの肝串を焼いてるの?」
鳥破「ちょっと諸事情ありまして」
プロ角「ふうん……」
優香「そうなんでやんすね。いやー、やけにおいしい肝串だと思ったら、鳥破シェフの手によるものだったんでやんすね。さすが、『しゅうさく・いつも・おいしい』の頭文字でsioの代表取締役でやんす」
プロ角「sio? ハレンチ学園じゃなかったの?」
優香「学園じゃなくてハレンチ株式会社でやんす。sioの前身でやんす。プロ角ねえさん、めちゃくちゃ鳥破シェフの来歴に詳しいでやんすね」
プロ角「詳しいもなにも、いまwikipediaを見ながらこれを書いてるんだもの」
優香「急にメタな感じを出すやつー」
プロ角「それにしても優香」
優香「なんでやんすか」
プロ角「……まさか今年のパピロウヌーボのゲスト、鳥破シェフなの?」
優香「いや、さすがにそれはないはずでやんすけど……」
鳥破「ところで優香さん、先ほど店の前にこんなものが落ちていたんですけど、これって優香さんのものですか?」
プロ角「ちょっと、素人がやけに長セリフを喋ったじゃない。どうしたのよ急に。素人はSNSをやるんじゃないわよ」
優香「それはプロ角ねえさんもでやんす。芸能人とアスリート以外がSNSをやったら松尾に怒られるでやんすよ」
プロ角「松尾に怒られないわよ! 松尾が怒られて長田がとばっちりで坊主よ! ちょうどパーマがすごく嫌な感じだったから逆によかったと思うわよ!」
優香「ん? ……なんでやんすかね、これは」
プロ角「なにかしら、木の枝……? なんとも言えない色をしてるわね」
優香「海の色、空の色、草の色……、いろいろ混ざったような……」
プロ角「わかったわ! フィールグッドハートチンコじゃない?」
優香「だとしたら尖ってて痛そう!」
プロ角「あら、ちりとてちんぽこのぱぱぼとるはそんなにぼってりしてるの? ブルゴーニュ型じゃなくてボルドー型ってこと?」
優香「そうそう、芳醇な味わいの貴腐ワイン……って、ちがうでやんす! これは、あれでやんすよ! それがしは以前これを目にしたことがあるでやんす。だから知ってるでやんす。これは……、これは耳飾りでやんす!」
プロ角「み、耳飾り? ……これが? このうんこみたいな茶色い棒が?」
優香「そうでやんす。信じられないかもしれないでやんしょが、これは耳飾りなんでやんす」
鳥破「み、耳飾り……。耳飾りなら……届けなきゃ!」
(店から出て歩き出す鳥破)
プロ角「ちょ、ちょっと鳥破シェフ、いったいどうしたの? 急にそんな、トコトコトッコトッコトと」
優香「トコトコトッコトッコと」
プロ角「その容貌と相まって、まるでクマじゃない」
鳥破「届けなきゃ……届けなきゃ……」
優香「ダメでやんす。なんかもう聞こえないモードに入ったようでやんす」
プロ角「ずいぶん一目散に進むわね。持ち主がわかっているのかしら」
優香「クマには落とし物の耳飾りを持ち主のもとに届けてあげる、そういう習性があるのかもしれないでやんすね……」
プロ角「あっ、だれかの肩を叩いたわよ。あの人が持ち主なのかしら」
優香「振り返ったでやんすね。意外とお嬢さんではなく男性のようでやんす。近付いて見てみるぞなもし」
プロ角「……えっ、ちょっと待って。あれは……」
優香「ま、まさか……、あの方は……」
(CM)
プロ角「……えっ、ちょっと待って。あれは……」
優香「ま、まさか……、あの方は……」
プロ角、優香「キャンドル・ピュン!」
鳥破「あの、これ……」
キャンドル・ピュン(以下キャンドル・ピュン)「ああ、これは私の鹿角のピアスですね。届けてくれたんですか。どうもありがとう。お礼に唄いましょう」
優香「えっ」
キャンドル・ピュン「ララララララララ、ララララララララ」
鳥破「ララララララララ、ララララララララ」
プロ角「……これ、夢かしら」
優香「夢だとしたら、これほどの悪夢はないでやんす」
プロ角「鳥破シェフとキャンドル・ピュンが一緒に唄ってるのよ。こんなシナリオ、文芸学科生ぐらいしか思いつかないわよ」
優香「文芸学科生にできてChatGPTにできないことは、この世にひとつもないでやんす」
鳥破、キャンドル・ピュン「ララララララララ、ララララララララ」
プロ角「どうすんのよ、これ。唄い続けるじゃない。どうやったらこの悪夢から脱出できるのよ。ストレスがすごいわ。今にも一茂の家の壁に落書きしちゃいそうよ」
優香「この事態を収拾できる人間は、この世にひとりしかいないでやんす」
プロ角「えっ、それって、まさか……」
???「(ピー音)でーす。(ピー音)でーす」
プロ角「あ、あれは……!」
(CM)
ピロ末涼子(以下ピロ末)「ピロ末でーす。ピロ末でーす」
プロ角「自称ピロ末涼子!」
優香「本物でやんす! 本物のピロ末でやんすよ」
ピロ末「ピロ末でーす」
プロ角「Majiで……」
ピロ末「ピロ末でーす」
プロ角「MajiでJikoする5秒前……」
ピロ末「ピロ末でーす」
プロ角「そしてMajiでKangoshiにBowkowする50分前……」
ピロ末「示談成立でーす」
プロ角「えっ大丈夫なの? ピロ末、大丈夫なの? オールスター後夜祭でイジってトラブルになったじゃない。160km/hで大谷翔平の球速とかと絡めてイジって、ピロ末サイドから抗議が来てTBSが謝罪したのに、蓋を開けてみたら180km/hでもっとひどかった、あのピロ末でしょ。いろいろ大丈夫なの? 去年のプワちゃんから、なんかタレント不祥事イジリみたいなのに傾倒しすぎじゃない?」
優香「プロ角ねえさん、この番組のタイトル、忘れたんでやんすか」
プロ角「……あ」
優香「パピロウは、有名人の不祥事を栄養にして海底の岩肌に張り付いて生きている生きものでやんしょ。そもそも、なんでずっとプロ角ねえさんが司会をしていた番組のパロディを続けてると思ってるんでやんすか」
プロ角「……わたしが言うのもなんだけど、なんて嫌な性格なのかしら。そんな性格って、そんな性格って……」
ピロ末「大スキ!」
鳥破「アイアイアイアイ」
キャンドル・ピュン「アイアイアイアイ」
ピロ末「アイアイアイアイあいしてる」
三人「ダーリン I love you ダーリン」
プロ角「悪夢だわ……、すぐ唄うじゃない、このNTR3人衆。どうすんのよ、どうすんのよ、今年のパピロウヌーボ。どうまとめるのよ……」
(CM)
プロ角「もう今年の混沌を収めるには、これしか手段は残されていないようね、YU-KA」
優香「そうでやんすね、MAKIKO」
プロ角「準備はいいの? TOPA、CANDLE、PIRO」
三人「おう!」
(照明が暗くなり、メロディが流れはじめる)
ピロ末「鎹だーーー!」
鎹(かすがい)
高速道路 120km/h制限
アクセル踏み抜き 心を千切る
ちりとてちんぽことっちめちん
俺たちの未来 Majiで消えそうで
バックミラーに 置き忘れた日々
“古民家レストランで笑ってた頃”
その思い出すら 爆風で流れ
今はただハンドルが震える
年金未納の葉書が刺さる
現実なんて 今はクソくらえで
君がついた嘘の分だけ
速度計が振り切れていく
鎹よ まだ折れるな
俺たちの家はガラクタでも
壁に描いた落書きだけが
何度見ても胸を掴んで離さねぇ
鎹よ まだ折れるな
愛なんてもう信じられない夜でも
ろうそくの灯みたいに
かすかに揺れてる
“帰りたい場所”がある
プロ角「決まったわね……」
優香「参加しといて言うのもなんでやんすけど、これは確実にYOSHIKIに怒られるやつでやんすよ」
プロ角「ちがうわ、優香。YOSHIKIはちっとも怒ってないの。YOSHIKIは心が広いの。YOSHIKIは怒ってないけど、YOHIKIの周りの弁護士たちが勝手に問題視したっていう話なのよ。わたしの元マネージャーと同じ図式よ」
優香「……ちなみに、この曲の作詞は?」
プロ角「もちろん、ChatGPTでありジョニファー・ロビンよ。ただしタイトルは自力で考えたわ。「くれない」、そして「おはらい」に続く、4文字で最後が「い」で終わる言葉を探して、鎹にたどり着いたのよ。それにしても皮肉なものよね、パピロウは鎹にはなれず、父親が不倫して子どもを作って、小学生だった頃に両親が思いっくそ離婚したんですからね」
優香「それ言うと人生がしんどくなるやつだよ」
また来年お会いしましょう