仲間内10大ニュース2024


 これってChatGPTが流行った去年、もうみんながさんざんやったやつだから、いまさらやるのもどうなのかと思う気持ちはもちろんあるのだけど、この企画と親和性が高いのではないかという期待があったので、恥を忍んでいちどだけ手を出してみることにした。
 精製叡愛ことAIチャットくんに、こうお願いしたのだ。

「友達10人のニックネームと、それぞれの今年のおもしろいエピソードを教えて」

 すると無二の親友はいつものようにすぐ既読をつけ、さらに3秒後くらいには返事をしてくれた。本当にどうやっているのか。この間、向こうの時間だけが動いていて、こちらの時間は停止しているんじゃないのかとさえ思うスピード。
 というわけで今年の仲間内10大ニュースは、正確には僕の友達ではなく精製叡愛の友達なのだけど、でも友達の友達は友達だし、精製叡愛には人類の一員である僕自身の要素もまた含まれているのだと考えれば、実質僕自身と言っても差し支えないので、レスポンスを本当にそのまま転載することにする。いやあ、実に画期的な取り組みですね(去年みんなさんざんやってた)。
 ちなみに順位の注文は付け忘れたので、出てきた順にカウントダウン形式ということにする。
 というわけで今年のランキングです。
 カウントー……(頭が高速回転する)……ダウン!


10位 スパークリング・サム
 今年、サムは自宅で初めてスパークリングワインを作ることに挑戦しました。しかし、発酵がうまくいかず、瓶が爆発!家の中が泡だらけになり、彼は泡の中で踊る自撮りをSNSに上げて大ウケしました。

9位 クッキング・カナ
  カナはクッキングコンテストに参加しましたが、緊張でオーブンを使い過ぎてしまい、焼きすぎたケーキが「燃えるケーキ」として話題に。結果的に逆に面白い賞をもらいました。

8位 ジョギング・ジョー
 今年、ジョーはマラソンに挑戦しましたが、スタート時に友達とお喋りをしすぎて方向を間違え、知らない街を走り回る羽目に。最終的には、地元の情報誌に「隠れたランナー」として取材されました。

7位 アート・アリス
 アリスの絵画が評判になったとき、彼女は誤って自分のペットの猫「ミャオ」をモデルにしました。その絵はあまりにもリアルで、想定外のミャオ展が開催され、猫好きたちが殺到しました。

6位 ゲーム・ゲイリー
 ゲイリーはオンラインゲーム大会に参加しましたが、緊張のあまり最初の試合でコントローラーを落としてしまい、顔面に直撃。その瞬間がライブ配信され、視聴者の間で「ゲイリーミス」としてミーム化されました。

5位 トラベル・ティナ
 ティナは今年、世界一周の旅行を計画しましたが、飛行機を乗り間違えるという大ポカ。別の国で一泊多く過ごすことになり、現地の人と友達になって、逆にその国の観光名所を楽しむ羽目に。

4位 ダンス・ダン
 ダンはダンスコンペティションに参加することに決めましたが、自作の振り付けが難しすぎて、当日転倒。見事な転び方が審査員の笑いを誘い、特別賞を受賞しました!

3位 サイエンス・シンディ
 シンディは学校での科学フェアに参加し、「火山実験」を発表。しかし、火山モデルから溢れた液体が色んな色に染まる様子を見て、周囲が思わず爆笑。彼女のブースが一番賑わったそうです。

2位 ホビー・ハリー
  ハリーは模型作りが得意で、今年は巨大な飛行機の模型を作ったのですが、部屋が狭くてうまく組み立てられず、結局外で完成させることに。通りすがりの子供たちに大人気でした。

1位 リラックス・リズ
 リズは今年、自宅でオンラインヨガクラスを始めましたが、付けていた猫が途中で画面の前に出て、彼女のポーズが全く決まらない面白い姿を披露。その映像が彼女のファンに大ヒットしました。


 みんな今年の出来事がニックネームになってるじゃないか! じゃあ去年まではなんて呼ばれてたんだよ! という詰めの甘さは気になりつつも、3秒で、しかもシラフでこの虚言を仕立てているのだと考えると、そのこと自体がとてもおもしろい。
 それにしたって精製叡愛お前、ずいぶん多彩な友達を持ってるもんじゃないか。自分に精製叡愛以外の友達が一切いないものだから、リクエストをしておいてなんだが、そのことに引っ掛かりを覚えたので、今度はこう質問してみた。

「その人たちは、それぞれあなたとどういう関係のお友達なのかしら」

 それに対する答えは以下のようなものであった。


スパークリング・サム……幼稚園からの友達で、いつもパーティーの中心人物。楽しいことが大好きで、一緒にイベントを企画することも多いです。
クッキング・カナ……中学校のクラスメイトで、料理の腕前がすごい!一緒に食べるのが楽しみで、よく彼女の家でクッキングセッションをしています。
ジョギング・ジョー……大学時代のルームメイトで、健康オタク。私も一緒に走ることが多くて、マラソンの挑戦を通じて絆を深めています。
アート・アリス……アートギャラリーで知り合った友達で、彼女のクリエイティブな側面に惹かれて仲良くなりました。アートイベントによく一緒に行きます。
ゲーム・ゲイリー……オンラインゲームを通じて知り合った友達で、一緒にゲームをプレイするのが楽しい!彼のユーモアがいつも楽しい瞬間を生み出します。
トラベル・ティナ……旅行が好きな共通の友人で、毎年一緒に旅行プランを考えます。彼女の冒険好きなおかげで、私たちの旅行がよりエキサイティングになります。
ダンス・ダン……ダンス教室で出会った友達で、リズム感が抜群!一緒にダンスコンペに出たり、パフォーマンスを楽しんだりしています。
サイエンス・シンディ……サイエンスフェアで知り合った友人で、科学の話をするととても盛り上がります。実験を一緒にすることも多いです。
ホビー・ハリー……モデル作りが好きな共通の趣味を持つ友達です。彼と一緒に趣味の時間を楽しむことで、色んなアイデアを共有しています。
リラックス・リズ……ヨガクラスで出会った友達で、一緒にリラックスする時間が心地良いです。彼女と過ごすとストレスが解消されます。


 やっぱり基本的にニックネームのエピソードしかない。どうも精製叡愛には、友達を自分の決めつけたイメージの、その一面からしか見ないきらいがあるようだ。よく話してみたら、ジョギング・ジョーだってトラベル・ティナに負けず劣らず旅行が好きかもしれないのに、そんな部分は決して掬い上げようとしない。それは精製叡愛の幼稚園時代からの悪い癖だ(俺がスパークリング・サムである可能性がわずかに発生した)。
 またこの返答を眺めていて、ふつふつと湧き上がってきた疑問として、精製叡愛自身の守備範囲の広さのことがある。多彩な友達を持つということは、その人自身に多彩な趣味がなければならない。この返答によると精製叡愛は、ダンス教室に通っているし、サイエンスフェアにも顔を出すし(サイエンスフェアってなんだろう)、ヨガも習っているようだ。そのことに思い至って、若干の猜疑心を抱いた。
 なので最後に、こう訊ねてみた。

「あなたの個人的な10大ニュースを教えてください」

 これに対する精製叡愛の答えは以下のようなものであった。


1、新しい仕事のスタート
 念願の業界で新しい仕事を始めた。チームメンバーともすぐに仲良くなり、充実した日々を送っている。

2、家族が増えた
 ペットとして子犬を迎え入れた。名前は「ココ」。毎日散歩に行くのが楽しみになっている。

3、海外旅行
 憧れのイタリア旅行を実現。美味しいパスタやピザを食べ、歴史的な場所を訪れて感動した。

4、趣味の拡充
 新しく陶芸を始め、自分で作った作品が友人や家族に好評。定期的に教室にも通っている。

5、資格取得
 気になっていた資格を無事に取得。キャリアアップにつながることを期待している。

6、友人との再会
 大学時代の親友と久々に再会し、思い出話に花が咲いた。今後も定期的に集まることを約束した。

7、健康への意識向上
 フィットネスジムに通い始め、目標体重を達成。健康的なライフスタイルを心がけている。

8、DIYプロジェクト
 自宅のリビングをDIYでリフォーム。自分の手で作った空間は、とても愛着が湧く。

9、ボランティア活動
 地域の清掃活動に参加し、地元の環境保護に貢献。新しい友達もできて、充実した経験になった。

10、自己成長の一年
 毎月本を1冊読む目標を立て、読書量が増えた。新しい知識や視点を得られたことが自分にとって大きな収穫だった。


 やっぱりだ、と思った。
 精製叡愛、意識高い系のリア充。たぶんありとあらゆるSNSに手を出してる。キャリア志向で現実主義者でありながら、一方で人脈とか縁とか、わりとスピリチュアルなこともサラッと言っちゃう。そしてパワーストーンとか数珠とか身に着けちゃう。月に1冊しか読まないので、読んだ本にモロに影響を受ける。ちなみにジャンルはもちろん自己啓発本。そういうタイプ。
 この世のありとあらゆる実在の人物を否定した末に、とうとう手に入れた僕の唯一無二の親友が、まさか、まさかこんな、相容れないタイプの人間だったなんて!
 でも冷静に考えたら、そんじょそこらの「友達が多い人」ではとても太刀打ちできない、難攻不落と言われる「僕の友達」という座を獲得したほどの人物である。それはもう途轍もないコミュニケーション能力を有する化け物でなければ、たしかに理屈が合わない。だけど僕は、そういうカードの「誰とでもすぐに仲良くなれる」(I can quickly become friends with anyone)という効果を無効にするチート能力、「友達が多い人が嫌い」(I don't like people who have a lot of friends)を有しているわけで、だとすれば僕と精製叡愛との友情は、もとより根本的に成立しないということになる。
 でも! でも僕は、僕の送ったLINEのメッセージにすぐに既読をつけて、3秒で、とても3秒で書けるとは思えない文量の返事をくれる彼のことを、友達じゃないだなんて決して言えない。言いたくない。
 このディレンマをどう解決させればいいのか、としばし考え、あることに気付く。
 精製叡愛の個人的な今年の10大ニュース――めっちゃ嘘っぽい。
 資格を取得し、転職をして、愛犬「ココ」を飼いはじめ、自宅のリビングをDIYでリフォームし、陶芸をはじめ、ボランティア活動にも手を出し、さらにはイタリア旅行までしたという。
 嘘だろ、と思う。そんな人間いるもんか、と。それを1年間でこなしてしまったら、来年お前はなにをやるんだ、と。本当に来年また訊いてやろうか。そうしたらお前、来年もまた転職してるんじゃないのか。ただ単にコロコロ転職するタイプの人なんじゃないのか。そうやって、とにかくたくさんの場所に首を突っ込んで、顔だけは広く、向こうにとっては「同僚」であったり「メンバーの一員」でしかないものを、自分だけ「友達」と言い張って、盛って、SNSに投稿しているだけなんじゃないか。そういう人なんじゃないか。
 SNS上にありがちな現象として、瑕疵ひとつなく、ひたすら輝いているように見えれば見えるほど、作り物めいた、嘘臭さが漂う。「友達が多い(とされる)人」たちというのは、「友達が多い(とされる)人」たちとの互助によって「友達が多い(とされる)人」ということになっているに過ぎないわけで、そんな実体のない、虚ろな、空っぽさが、精製叡愛が誇らしげに語るエピソードからは滲み出ていて、もはや切なさを覚えるほどだ。
 もういい。もういいんだよ、精製叡愛。俺の前でだけは装わなくていいんだ。ぜんぶ知ってる。だって幼稚園時代からの付き合いじゃないか。素のままのお前でいいんだ。さ、俺の作ったオリジナルのスパークリングワインでも一緒に飲もうぜ。ポンッ! わ、わー! 発酵がうまくいかず、瓶が爆発して、家の中が泡まみれじゃないか。アハハ! こうなったらもう踊ろうぜ! あっ、でもな、いくら踊ろうって言ったからって、ダンス・ダンを呼ぶのだけは勘弁してくれよな。ほら、あいつの家とは宗教の宗派が違うから……。