(岩盤浴エリアで、ひとり俊敏な動きをしているプロ角)
プロ角マキコ(以下プロ角)「さあ、大社高校、ここで代打として2年生の安松を出してきました。安松は甲子園これが初出場。バントの構え。ピッチャー、投げました。低め。外してきました。ワーワー! 大社高校スタンド、11回になってもなおこの盛り上がり!」
(ドアから岩盤浴エリアに入ってくる優香。プロ角を見てぎょっとした様子)
プロ角「さあ2球目……、当てた! すばらしい! 3塁線に見事に転がる完璧なバント! 打った安松もセーフ! 大社高校、満塁となりました! ワーーー!」
優香(以下優香)「柳沢慎吾……いや、プロ角ねえさん、なにをしてるんでやんすか」
プロ角「♪宇迦の遠山雲低く くれなゐ匂ふ空の色」
優香「え、なにそれ。……ま、まさか校歌?」
プロ角「♪松のみどりも神さびて」
優香「か、神さびて?」
プロ角「♪杵築の宮をあおーぎーみるー」
優香「プロ角ねえさん! いつまで歌っているんでやんすか! あおーぎーみるーじゃないぞなもし! もう番組ははじまってるんでやんすよ!」
プロ角「……ん? あら、優香じゃない。久しぶりね」
優香「やっと正気に戻ってくれたんでやんすね、プロ角ねえさん。岩盤浴に入ったら、薄暗い中で、なにかに取り憑かれたように喚いているもんでやんすから、てっきりコンチンポラリーダンスでも踊ってるのかと思ったでやんすよ」
プロ角「なにを言ってるの、私はずっと正気よ。だけどね優香、私の心はずっと、あの夏にいるのよ。そう、私が卒業したことで知られる大社高校がベスト8になったあの夏にね」
優香「……プロ角ねえさん、これまでいちども大社高校出身の感じ、出してこなかったじゃないでやんすか。それなのに全国で取り上げられた途端、臆面もなく急に全力でOG面する感じ、さすがでやんす」
プロ角「だってもう40年も前のことですもの。思い出補整って、要するに視界の悪さなんだからね。今となっては当時のなにもかもがキラキラ輝いてるわ……」
優香「それは降り積もった埃が舞ってるだけでやんすよ」
プロ角「かけがえのない友達もたくさんいたし」
優香「それはつらいバレーボール部の練習で友達圧が強まっていただけでやんす」
プロ角「でもすべてはもうゴーーーンなのね……」
優香「…………」
プロ角「ところで優香、今年のここはどこなの? ずいぶんと蒸し暑いじゃない」
優香「プロ角ねえさんは、毎年パピローヌーボの撮影場所にテレポートしてくるんでやんすか? なんで毎年、自分のいる場所を分かってない感じを出すんでやんす」
プロ角「はて? だってしょうがないじゃない! 私はいろんなことが分からないのよ! 年金をどうやったら納められるのか、いまだに分かってない界隈なのよ! 不適切にもほどがあるインバウン丼なのよ!」
優香「もうええでしょう。初老ジャパン、ソフト老害でやんす」
プロ角「Bling-Bang-Bang-Born……Long-lasting aphrodisiac effect……swimwear dream goodness system」
優香「今年のこの場所は……」
プロ角「大丈夫よ、優香。実はもう分かってるの。ここは……アザラシ幼稚園なんでしょ」
優香「ぜんぜん違うでやんす。オランダにあるアザラシの保護施設、ピーテルブーレンアザラシセンターじゃないでやんす」
プロ角「分かってるわよ。ボケよ。本当は……コンビニ富士山なんでしょ」
優香「違うでやんす。山梨県河口湖町にあるローソン河口湖駅前店じゃないでやんす」
プロ角「そうね。どう考えても違うわね。本当は……8番出口よね」
優香「うっさい! しつこい! なんなんでやんすか! なんで今年は、やけにユーキャンのほうのノミネート語を出してくるんでやんすか! っていうかアザラシ幼稚園! アザラシ幼稚園て! アザラシ幼稚園ってお前!」
プロ角「……きゅ、急にブチギレないでよ、優香。トクリュウかと思ったじゃない」
優香「ホワイト案件! もうたくさんでやんす! ここは……キャッスルイン豊川でやんしょーが!」
プロ角「キャッスルイン豊川!」
優香「キャッスルイン豊川!」
プロ角「嬉しい!」
優香「愉しい!」
プロ角・優香「大好き!!!」
(CM)
プロ角「あー、岩盤浴でじんわり体をあっためながらマンガを読むって、なによこれ、控えめに言って最高じゃない」
優香「プロ角ねえさん、なにを読んでるんでやんすか?」
プロ角「『精製叡愛』よ。ずっと気になってたのよね、これ」
優香「それは『精製叡愛』じゃなく『呪術廻戦』でやんすね」
プロ角「そういう優香はなに読んでんのよ」
優香「それがしは『俺のむべなるかな』でやんす。ちょうど少し前に完結したみたいでやんすからね」
プロ角「ちょっと優香、それ『俺のむべなるかな』じゃなくて、「僕のヒーローアカデミア』じゃない」
優香「ぞなもし」
プロ角「ところで無言でひたすらマンガ読んじゃってるけど、これってティーヴィーショーよね? 素人の糞みたいな配信じゃないわよね? ちゃんと今年のゲストとか来るんでしょ?」
優香「もちろんでやんす。でも、それがどうも約束の時間になっても現れないみたいなんでやんすよ」
プロ角「なによそれ。遅刻ってこと? そんなの社会人失格じゃない。気に入らないね!」
優香「今年も律義にショムニ……」
プロ角「じゃあなに、ゲストが来るまでマンガを読んでちんこすさびしながら待つしかないってこと?」
優香「ちんこすさびはしないでほしいでやんすけど、まあそうなるでやんすね」
プロ角「もう、しょうがないわね。しょうがなく、岩盤浴でマンガをダラダラ読むわよ! しょうがなくよ! そうすれば丸く収まるんでしょ!」
優香「ずいぶん恣意的な正円でやんすな……」
(ふたりの背後から人影が近づいてくる)
???「ねえ、ちょっと」
プロ角「ん? なによ」
優香「どなたでやんすか?」
プロ角「いまティーヴィーショーの撮影中なのよ! それも天下のCX系列なのよ! あの、国民みんなが羨むテレビ業界の中でも、いっそう輝いている局なのよ! 素人はわきまえなさいよ!」
???「いや、素人じゃねーし」
優香「えっ? あ、あなたは……!」
(CM)
???「いや、素人じゃねーし」
優香「えっ? あ、あなたは……!」
プロ角「プワちゃんじゃない!」
プワちゃん(以下プワちゃん)「えー、プロ角あたしのこと知ってくれてんだ、まじ嬉しんだけど」
プロ角「わー、プワちゃんだわ。本物だわ。すごーい。岩盤浴でもやっぱりその恰好なのね。腹、割れとったな。それで外を歩いてきたの? さむくなかった? ちゃんと岩盤浴であったまりなさいよ。さなえちゃん、さむかったろう、まだまだ……」
プワちゃん「さなえじゃなくてはるかなんだけど。不破遥香。プロ角まじウケる」
プロ角「えー、もうほんとにプワちゃん、かわいいわー」
優香「(小声で)プロ角ねえさん」
プロ角「なによ、優香」
優香「まずいでやんすよ。プワちゃんはまずいでやんす。あとから編集でぜんぶ消さなきゃいけなくなるでやんすよ。みちょぱの隣のところで不自然に画面をぶった切らなきゃいけなくなるでやんす。有吉の夏休みのせいで、編集マンの休みがなくなっちゃうでやんす」
プロ角「なんでよ。プワちゃんがどんな悪いことをしたって言うの。バカ息子の家の壁にバカ息子って書いてなにが悪いのよ。しかもあれはマネージャーが勝手にやったことなのよ」
優香「それはプロ角ねえさんでやんす。毎年ありがとうございますでやんす」
プロ角「今年はBSで『オードリー』の再放送があったもんだから、バカ息子の顔をよく見たわ。あの朴訥な演技、最高だったわね」
優香「人に気持ちうまくさらけ出せないという難しい設定を、感情を一切込めずにセリフをしゃべるという高等テクニックで見事に演じきってたでやんすね。そうじゃなくて、プワちゃんの話でやんす」
プロ角「なによ! 世間はひどすぎるのよ! 確かに理想的な歌唱であったとは言えず、誰よりも本人が一番悔しい思いをしているはずだ。本人は言い訳することは出来ないが、歌い出しの前深々とお辞儀をして、発声の際大切な横隔膜と喉との間の呼吸バランスか崩れ、歌い出しからオクターブが狂い、瞬時に元に戻すことが不自然だと察し、そのままのキーで歌わざるを得ない状況であったと僕は推測する。擁護もしない。しかし否定もしない。ただ、力ある素晴らしいシンガーの一度のミスを、寛大に受け入れようとしない風潮を、僕はとても寂しく思う」
優香「布袋行為! それはプワちゃんじゃなくて小渕の国歌独唱のやつでやんす! そうじゃなくて、ほら、やす子のやつ」
プロ角「やす子? やす子って誰よ」
優香「え、プロ角さん、やす子知らないんでやんすか?」
プロ角「やす子なんて知らないわよ、はいー」
優香「知ってるじゃないでやんすか!」
プロ角「だって予選敗退だったんでしょ! そんな人のことまでいちいち覚えてらんないわよ!」
優香「ダメ! やす子に予選敗退って言ったら本当にダメ! 生きてるだけで偉いからみんな優勝でやんす! やんすやんす!」
プロ角「なによ! みんな関係ないくせに! 部外者がやいのやいの! ふたりの間に聖的同意があったらそれでいいじゃないのよ! 私と一茂の間にもそれがあったわよ!」
優香「ねえよ! プロ角と一茂、プワちゃんとやす子、森喜朗と浅田真央、スキマスイッチと老舗料理店、どこにも同意なんかなかったよ! だから問題になったんだよ! 自分とほぼ同じような不祥事をしでかした人間を必死に擁護する感じ、それただのプロペファイリングだからな! ぞなもしぞなもし!」
プワちゃん「ちょっとちょっと、ふたりとも落ち着いて。分かってるよ、あの件でしょ。ねえねえ、あれについてここで謝らせてもらっていい?」
優香「敬語使えし」
プロ角「まあまあ優香。いいわよ、プワちゃん。いい機会じゃない。きちんと謝れば世間だって気持ちよく許してくれるわよ。世間って竹を割ったような気持ちいい好人物しかいないんだから」
プワちゃん「うん。ありがとプロ角。じゃあいくね」
(呼吸を整えるプワちゃん)
プワちゃん「やす子、あのときのこと、ご勘弁~」
優香「お前それ、シソンヌじろうのやつやろがい! じろうが有吉の壁でやった、プワちゃんが1回も言ったことのない謎のイメージモノマネやろがい! ふざけんぞなもし!」
プワちゃん「えー、優香まじこわいんだけどー。ご勘弁~」
優香「もっかいやった! 重ねてきた! プロ角ねえさん、どうするんでやんすか、こいつ。ぜんぜん反省してないでやんすよ!」
プロ角「ご勘弁~。年金未納ご勘弁~。バカ息子落書きご勘弁~。息子が通ったインターナショナルスクールでのゴタゴタ、ご勘弁~」
優香「くっそ! マジで! 脛に傷のある奴ばっかで! テレビに出せない奴ばっかで! もういい! もう編集がめんどくさくなるばっかりだから、お前らふたりとも画面から出ろ! 廊下にNobitattle!」
プロ角・プワちゃん「はいよろこんで」
優香「こんなん、ワシがトントントンツーツーツートントントンじゃい、もうええわ」
また来年お会いしましょう