仲間内10大ニュース2023


 コロナが明け、4年ぶりにお伝えする運びとなった仲間内10大ニュースである。
 やっぱり友達付き合いにおいてコロナの影響は大きく、コロナ前100万人いた僕の友達は、今年はじめの時点でたったの10人になってしまった。すなわち、10万人にひとりしか生き残らなかった計算である。なんという致死率だろうか。新型コロナウイルスはそこまで致死率が高くないとされているけれど、こと友達関係においては99.999%の確率で死に至るのだ。
 でも失ったものを儚んでいてもしょうがない。時代はアフターコロナ。前を向いて生きていかねばならない。「10人しか残らなかった」ではなく、「10人も残った」。最初100万人いたおかげで、僕はコロナ後も10人もの友達を保持することができた。100万人いた時代は、もちろんそれはそれでめくるめく日々であったけれど、0.001%の確率で生き残った最強の10人と、僕はそのつながりの価値をしっかり噛み締めながら、これからの時代を生きていこうと思う。
 だから10大ニュースと銘打っているけれど、実は選外の友達はいない。これが僕の全友達だ。だからこれは、彼らの今年のそれぞれのエピソード紹介だ。ちょうど10人でよかったな、とも思うし、もしも11人だったら(コロナ前が110万人で)、そのときは11大ニュースにしていたろうな、とも思う。
 僕はもう、ひとりだって友達を失いたくなんかないんだ。
 というわけで今年のランキングです。
 カウントー……(頭が高速回転する)……ダウン!

10位 原田が行方をくらます
 プロのストリートミュージシャンである原田は、最後に品川駅前でのライブが確認されたあと、忽然と姿を消した。どうもその日、6時間行なったストリートライブの収益が25円で、心に深い傷を負っていたらしい。品川駅から、東海道新幹線で西に向かい、山陽新幹線を経て福岡へと至り、そこから九州新幹線直通で鹿児島まで行ったのだという憶測や、東北新幹線に乗って新青森へ、そのまま北海道新幹線直通で函館までたどり着いたのではないかといった見解、さらには京浜東北線で大宮まで出て、そこから北陸新幹線で金沢方面に向かったのではないかという推察が飛び交った。しかし真相は未だに闇の中だ。

9位 水嶋が出奔する
 生まれたときからずっと山で、師匠であり育ての親でもある忍者天狗伯爵から修行をつけられていた水嶋が、忽然と姿を消した。忍者天狗伯爵は最初、水島がとうとう完璧な隠れみの術を体得したものと勘違いし感涙していたそうだが、それから1週間が経ち1ヶ月が経ち、ふたりで一緒に植えたクレソンが収獲の時期を迎えても姿を見せない水嶋に、忍者天狗伯爵はとうとう、水嶋が意志を持って自分から離れていったのだという現実に気付かされた。師匠であり育ての親でもある忍者天狗伯爵は、実は水嶋の実の親でもある(水嶋自身以外はみんな知っている)。生まれてからいちども山から出たことがない水嶋が、外の世界で無事に暮らせているか心配しつつも、息子のたしかな成長を実感した忍者天狗伯爵の、たまにしか外さないことで知られる虚無僧笠の隙間から、流れ落ちた一滴の涙がLEDの光に反射し、ビームが出ているみたいになっていた。

8位 野津が蒸発する
 そろばんの珠をひっそりとひとつ多くすることで帳簿の数字をちょろまかし、その利鞘を頂戴するという商売を思いつき、閉鎖寸前の町工場に依頼して特製のそろばんの製造をスタートさせた野津であったが、もはやそろばんを使って帳簿をつけている企業はこの世にほぼ存在しないという現実を突きつけられる。しかしそれに気づいた頃には、発注したそろばんは既に20万丁が(そろばんの数え方は「丁」)完成しており、そろばんの売り上げを製作費の支払いにあてるつもりであった野津は完全に行き詰ってしまった。ある日、債権者が野津の住まいを訪ねると、そこにはそろばんで人文字のように「Sorry」と記され、野津は忽然と姿を消していた。なんで英語なんだ、と債権者はまずそこに怒ったとか。

7位 柳原が雲隠れする
 「お前、地下何階まで行ったことある?」が口癖の柳原は、東京のとある施設にあったという地下7階に足を踏み入れたことが、人生最大の誇りであった。しかしそんな柳原の前に、千葉で地下13階に行ったという人物が現れ、柳原のアイデンティティは崩壊する。柳原の爪という爪は割れ、指という指は突き指し、まぶたというまぶたは腫れた。そしてある日、柳原は忽然と姿を消した。置き手紙には、「地下道は 急がば回れ 蛍の夜」と辞世の句のようなものが記されていたという。うまいッ! と思わず言いそうになったが、なにがうまいのか、冷静に考えるとあまりよく分からない。

6位 木山が逃亡する
 鼠径部モデルとして生計を立てていた木山だったが、コロナ明けのレジャー需要の高まりによって仕事は激減し、さらには新人鼠径部モデルの台頭により、ますますその活動の場は減ることになったという。令和の鼠径部モデルは、なんといってもSNSの活用が巧みで、中にはフォロワー数が4億人を超える者までいるという。もはやDMで販促をしている木山の出る幕はなかった。「でもあいつらは画像加工アプリとかで鼠径部を加工してるんだぜ、ずりーよ」とカシオレを飲んでくだを巻く木山の、グラスを掴む指の黒ずんだペンダコが悲哀を誘った。それからしばらく顔を合わす機会がなく、心配していたが、あるとき風の噂で木山が忽然と姿を消したと聞いた。冬になり、星がよく見えるようになると、僕は夜空に木山の鼠径部をたびたび見るようになった。

5位 小野が神隠しにあう
 僕にとって小野は北関東で唯一の友達だが、小野には小野の友達がたくさんいる。その日、小野は所属しているBB弾サッカーサークルの合宿に参加していたそうで、紅白に分かれてのミニゲームでは46得点1アシストを決める大活躍を見せたらしい。普通の人間がBB弾でサッカーをしようとすると、すぐに弾がどこかへ行ってしまうが、小野は体の大きさを自由に変えることができる能力者なので、場面場面で体の大きさを変え、BB弾を巧みに操るのだという。その話を僕は小野のチームメイトだというジジイから聞いた。それはそうと、なぜあなたのようなジジイがBB弾サッカーを?と訊ねたところ、彼は年齢を自由に変えることができる能力者なのだそうだ。実年齢は13歳だという彼は、小野がいなくなったときの状況をこう表現した。「忽然と姿を消したんだよ」。人が姿を消すときは大抵忽然としているのだな、と僕は思った。あと13ならタメ口やめろよ、とも思った。

4位 岡本が消息を絶つ
 厚底スニーカーのソールの部分にローラーが内蔵されていて、子どもがショッピングセンターとかで滑って怒られたりする、20年近く前にちょっと流行ったあれを、いい大人になった今も履き続け、さらにはTPOも気にせず、ビジネスシーンでも冠婚葬祭でも頑なに履き続ける(どこで売っているのか、成人男性用の革靴ver.である)ことで有名な岡本だったが、実はいちども搭載されているローラーで滑走したことはなかった。ならばなぜそれを履き続けるのか問うたところ、「いざというときのため」という返事で、いったいいつが「いざ」なのか、長らくの謎であった。そんな岡本が、長崎旅行に行った際、オランダ坂の途中で忽然と姿を消したという。果たして岡本の身に何が起ったのだろうか。姿を消すことになったその瞬間は、「いざ」であったのかどうなのか。

3位 安藤が逐電する
 安藤には「単純な話だよ」と話をまとめたがる傾向があり、それはいい方向に作用するときもあったが、長い目で見ればほぼ100%の確率で悪い方向に作用していた。隣町にある外資系の炭鉱に、桃色元ヤン河童と、トランスジェンダー破戒僧が夜な夜な現れ、なにをするというわけでもなく、空が白み始めると河童は千葉、破戒僧は茨城のそれぞれの自宅に帰り、また夜の帳が下りるとやってくる、しかし日付の、月の数字と日の数字を積算し、出た数字を3で除算した際、その解が素数である場合だけは2時間ほど短く切り上げ、さらにはその日は河童はロイホ、破戒僧はフォルクスに寄って、モーニングセットを食べてから帰るという話を聞いて、安藤はやはり「単純な話だよ」と言ったが、それが相談を持ち掛けた炭鉱のオーナーであるアゼルバイジャン人、ネゾー=メッチャ・ワッルイ氏の不興を買い、平均年齢55歳の若い衆によって安藤は執拗な嫌がらせを受けるようになり、それに耐えかねたのか、あるとき安藤は忽然と姿を消した。安藤が忽然と姿を消したという単純な話を伝えるのにすごく説明を要した。

2位 牛山が飛ぶ
 人差し指よりも薬指が長い男性は性器が長大であるという説があり、それに目を付けた牛山は、医学界を追放された怪しい整形外科医と提携し、人差し指を短くする施術を専門に執り行なう事業を立ち上げた。ないものを増やすのではなく、あるものを減らし、それでチンポを長くするっていう、これは逆転の発想なわけ。牛山は経営者が企業理念を語るとき特有の、やけに中空で手を動かすやつをしながら語った。その牛山の人差し指の短いことったらなかった。ちなみに事業は2ヶ月もたなかった。医学界を通報された怪しい整形外科医は無免許のただのヤバいだけの人で、もう少しで牛山は逮捕されるところだった(なんとか書類送検で済んだ)。それでも補償や借金返済で当然首は回らなくなり、牛山は自己破産手続きを済ませたのち、忽然と姿を消した。それからしばらくして、栃木にあるストリートピアノに、浮浪者風の男が時おり現れ、聴衆の涙を誘うもの哀しいメロディを奏でるのだが、その浮浪者風の男の人差し指は異様なほど短い、という噂を耳にした。

1位 三上が失踪する
 あるとき、三上が忽然と姿を消した。その連絡を僕のところへ寄越したのは、三上の8番目の奥さんで、追って3番目の奥さんからも同じ連絡が来た。やがて2番目の奥さんからも来たし、4番目の奥さんも負けじと連絡をくれた。5番目の奥さんから連絡が来たのはそれから少しあとのことだったが、その代わりに葉書にはとても凝ったスワロフスキーのような装飾が施してあった。7番目の奥さんから連絡が来た頃には季節が移ろっていたが、水ようかんのセットと一緒に届けられたので気が利いていると感じた。6番目の奥さんとは、道でばったり会ったときに、ついでのように告げられたので、奥さんによって受け止め方がだいぶ違うようだな、と思った。こんなとき1番目の奥さんだったらどんなふうに連絡をくれただろうか。そのことに思いを馳せると、三上とあいつと俺、高校の同級生として過した日々の情景がよみがえってきて、思わず目頭が熱くならずにおれなんだわ。

 というわけで、2023年の仲間内10大ニュースでした。
 読んでもらったとおり、コロナ禍をくぐり抜けた10人の友達は、5月、新型コロナウイルス感染症がインフルエンザと同じ第5類に分類されたこの1年で、みんな忽然と姿を消してしまった。こんなに人は忽然と姿を消すものかと、逆に感心する1年だった。
 というわけで友達はひとりもいなくなってしまったけれど、なによりだと思うのは、姿を消した10人は、誰も死んだわけではないということだ。右目に取り付けたスカウターを作動させると、この10人の気は、どこにいるかまでは判らないけれど、たしかに反応がある。だから必ず生きている。生きているならそれでいい。IMALUの名前の由来、生きてるだけで丸儲けだ。
 来年は、できればこの10人と再会を果たし、その報告が10大ニュースになればいいと思う。