パピロウの日報告 2019

 
 今年もパピ労感謝の日の朝を、そして夜を、人類が無事に迎えられたことに、僕はとても安堵している。温暖化とか、大量破壊兵器とか、いろいろ問題があって、さすがに来年はもう無理かな、終わっちゃってるかな、と思いながら日々を過しているが、なんとか今年も世界は、(畏れ多くも)パピ労に感謝してもよいとされる日を持つことができた。それよりもめでたいことなんて、この世界にひとつもない。祝え。人類よ、穢れの多い世界を営む自分たちのことを大いに恥じつつ、今日ばかりは大いに祝うのだ。
 というわけで、世界各地で催され、僕へと報告されたパピ労感謝の日レビューです。

 最初はティンティン共和国のボキティン・ポッコラさん。今年日本で行なわれたラグビーワールドカップでの、ニュージーランドのハカをはじめとしたオセアニアの国々による試合前の踊りは記憶に新しいところですが、ティンティン共和国にも、原住民カッセホッケ族の踊りが伝承されているそうで、今回はパピ労感謝の日記念で執り行なわれた、陰嚢引き延ばし大会の競技前に、デモンストレーションとしてその踊りが披露されました(ちなみにイベントの本体である陰嚢引き延ばし大会については、よほど撮れ高がなかったのか、モザイク掛けが面倒だったのか、あるいは想像したくないことですが流血沙汰の怪我人が出たのか、ナレーションベースでの静止画のみの編集となっていました)。テコキと呼ばれるその踊りは、オセアニアのあれらと同じく戦士たちの踊りでありながら、女性とともに行なうのが大きな特徴で、一言でいうなら、オクラホマミキサーの、女性は手を、男性は手の代わりに陰茎を用いたバージョンとでもいうもので、なんかこういうエロマンガって実際にありそうだな、ということを思いました。
 
 次はタピオカ島のユッキーナさん。タピオカ島でいま大流行りだという、カヌレを用いたドリンクを紹介してくれました。カヌレといえば、3年前にツォネプォネイロ・ロンロン・カッサナバススッスさんも、カヌレを用いたVTRを送ってくれたことがありました。なんでしょうね。誰がそんなにカヌレに拘泥しているんでしょうね。ティラミス、パンナコッタ、ナタデココのあと、次はこれ、と大々的に仕掛けられながらぜんぜんブームにならなかったカヌレのことが、(実際に食べたことはいちどもないくせに)すごく好物な、性根の悪い人間がここには介在しているような気がしてなりません。さて本題のカヌレを用いたドリンクですが、カヌレを細かく砕いたものをミルクティーの中とかに沈ませて太いストローで飲むのかな、と思いきや、大きめに焼き上げたカヌレの、内側をくり抜いて器状にしたものへミルクティーを入れ、そこへキャッサバの根茎から摂ったでんぷん質を粒状にしたものを沈ませ、太いストローで飲むというもので、本当にいまタピオカ島では猫も杓子もこのカヌレ器状ドリンクを飲んでおり、これを飲むことを「カヌレる」といって、流行語大賞にもノミネートされるほどだといいます。しかしブームになりすぎてさまざまなトラブルも起っており、ドリンクを飲み終えたあとの空のカヌレが道端に捨てられたり、店と従業員の間で契約に齟齬が生じ、そこへ従業員の親族がしゃしゃり出てきて店側を恫喝して炎上するなど、カヌレなだけに、人と人との間に溝を生じさせてしまっているという側面も。こうなったらパピ労の日人脈で、ツォネプォネイロ・ロンロン・カッサナバススッスさんを現地に派遣し、カヌレも食べるとわりと美味しい、ということをタピオカ島の人々に啓蒙し、カヌレだけに、もう誰もほろ苦い思いをしないで済むようになればいいなと思います。

 次はヌースヌースのヌァにある、ノッジムに通う皆さん。ノッジムといえば、トレーニング業界からは聖地扱いされている伝説のジムであり、そもそもトレーニングという言葉は、ノッジムの創始者、トレーニング・ノッさんのファーストネームから来ており、つまりトレーニングという行為は、ノッさんのようになろうとすることがその原義とされています。今年に入ってフィジカル改造に目覚めた僕にとっても、もちろんノッジムは憧れの地であり、今回そちらからメッセージをもらったことは望外の喜びです。それにしてもさすがはノッジムに通う猛者たち、画面に写り込む人たちがことごとく素晴らしい肉体で、思わず圧倒されました。映像の中では、こんなのたぶんノッジムでしかやってないんじゃないかな、と思われる最先端のトレーニング方法が惜しげもなく披露されます。左右の人さし指を耳たぶの前後に往復させるトレーニング、体育座りの状態で膝に顎をこすりつけるトレーニング、バケツに入った水を見つめるトレーニング、子どもの頃の恥ずかしい失敗エピソードを思い出すトレーニング、嫌いな食べものをひと口でも食べるようにするトレーニング、スクワット、人前でも緊張せずに話せるようになるトレーニング、大人として恥ずかしくない作法で鮨を食べるトレーニング、懸垂など、目から鱗のトレーニングばかりでした。またトレーニングの最中に麦茶を飲むと効果的、というのも意外な発見でした。今回の映像を参考にして研鑽を重ね、僕もいつかはノッジムに通う皆さんのように、タンクトップを横に着るような達人になりたいと思いました。

 そして最後は、モンゴルのドルゴルスレンギーン・ダグワドルジさん。とうとう7年目のダグワドルジさんです。最初は戸惑っていたこの謎のモンゴル人からのVTRも、もうこれなしではパピ労の日が締まらないな、という気持ちになってきました。ところがVTRを再生して、すぐにショックを受けました。なんとダグワドルジさんが激痩せしているのです。不自然なほどゲッソリしていて、心配になりました。しかし「パピロウ! 1年ぶり! そっちは調子どう?」と訊ねてくる声は例年と変わらず元気そうで、少し安心しました。「こっちは見ての通り、すっかり痩せちゃってね! いやー、参ったね……」と、本人も激痩せを憂えているようです。大きな病気でもやったのかしらと気を揉んでいたら、「…………なーんてね!」とカメラが動いて、いつもと変わらぬ様子のダグワドルジさんが画面に登場しました。なんとダグワドルジさん、湾曲させた鏡の前に立って、それを撮っていたのです! 「驚いた? 驚いたろ! いたずらだよ! 本当は痩せてないよ! 羊たくさん食べてるからね! パピロウ、羊食べる? 羊おいしいよ!」と笑うダグワドルジさん。でもそんなダグワドルジさんが、もう涙でぼやけて見えませんでした。「じゃあパピロウ! 来年もお互い元気でいようね! 羊でもりもり元気だよ! 約束だよ! じゃあね!」すっかり騙されました。でも嘘で本当によかった。来年もダグワドルジさんの元気な姿を見るために、1年を生き抜きたいと思いました。

 というわけで今年も悲喜こもごもあったパピ労の日報告。でも元日も、始まった当初は言うほど元日じゃなかったという。そんな感じでパピ労の日も、ふたつ折りの白い地図に記す小さな決意を正直にいま伝えていけばいいんじゃないかと思う。ではまた来年。