ブログクロス連載小説「俺と涼花」第5回


また喀血してしまった。俺は昔から感極まると喀血してしまう癖があった。なんかしらの大病を抱えているわけではない。喀血といっても、嘔吐が血という形で出てくるタイプというか、なんとなくそんな感じの、なんでもないものだ。とは言え喀血すると、やはり一気に血圧が落ちるため、気を失う場合が多い。今回もそのパターンだった。
 闇の中で発光する煙が焚かれるように、じわじわと意識が戻ってきて、俺は自分が横たわっていることを感覚から察した。寝心地は悪くない。これはソファーの上だろう。まだ目は開かないが、徐々に頭の覚醒も進んできて、倒れる前のことを思い出してきた。そうだ、俺はリビングで、妹にペニスケースを叩かれ、勃起して、勃起の面倒を見てもらおうと企んだが、目敏い妹に陰嚢の上下移動から勃起が自然と治まったのを喝破され、ぎゃふんとなって血を吐いたのだった。
 妹――涼花のことに思いを馳せると同時に、股間にむず痒い違和感があることに気がついた。まだ目も開かないし体も動かないので、なにが起っているのか確認できない。冷たいような、温かいような、不思議な感触だ。なんだろうか、これは。
「……んっ。ちゅっ」
 ちょうどそのとき足元から、吐息のような声が漏れ聞こえた。
「……んちゅっ。ちゅっ、ちゅばっ。ちゅっ」
 唾液を多く含んだ咀嚼音である。端々に混ざる声色からして、妹のそれに違いないことは分かった。
 妹が?
 俺の下半身のあたりで?
 唾液交じりの咀嚼音?
「………………?」
 しかし喉を動かして声を発するほどには体が回復していない。動かない体をどうすることもできないまま、妹のなまめかしい声と、下半身の疼きを受け入れるほかなかった。
「……ん、れろ、れる、ん、んむっ、んっ、れろ」
 それにしても一向に収まることのない妹のこの声はなんなのか。
 いったい妹はなにを口に含んでいるというのか。
「……ちゅばっ、ちゅうぅぅっ、ちゅっ。ぶちゅっ、れる、れるる」
 さらにそれに連動するように走る下半身への刺激の正体はなんなのだろう。
「……ぷはぁっ。んっ、すごい、こんなの、口に入りきんないよ……。あーん、れる」
 まさか。
 そのとき頭の中に天啓が与えられた。
 これはもしかすると伝説のあれではないか。
 モーニングキャンディ。
 寝ていた主人公が、下半身の違和感で覚醒し、目を開けて視線をやると、股間に女の子がむしゃぶりついているという、あのパターン。これまでただの都市伝説だと思っていたが、今まさに我が家のリビングでそれが起っているのではないか。
「……れるっ、ちゅっ、ちゅっちゅっ、ちゅぱっ、むちゅ」
 先ほどは射精の世話を拒んでみせた妹だったが、それは思春期特有の照れ隠しに過ぎず、実はなんだかんだで俺のペニスケース姿に欲情していたのだ。それで喀血のショックで俺が気を失うやいなや、これはチャンスとばかりに俺のわからんちんぽこをとっちめちんぽこすることにした……。全てがつながった。真実はいつもひとつ。体は子ども、頭脳も子ども、性欲は大人のそれ。それが俺の妹、涼花なのだ。
「……こっちもおいしそう。ちゅっ。れるる。あはっ、ぷにぷにしててかわいい」
 めくるめく快楽を味わいながら、兄としてこの事態をどう収拾するべきか、俺は頭を働かせた。飛び起きて妹の狼藉を止めるという選択肢はありえない。迷っていたのは、起きるべきかどうかだ。俺が意識をなくしていると信じている妹の感情を思えば、このまま射精まで至るのも悪くないだろう。しかしそんな紳士的な行為が果たして俺にできるだろうか。できるはずがない。すぐにでも起き上がり、陰茎をひとしきり堪能したあと陰嚢へと舌先を移動させたらしい妹の、はしたない姿を見たかった。
「ぱくっ。えへへ、おもひろーい。こりこりひへる……」
 きっと妹は俺と目を合わせた瞬間に、睾丸を口に含んだまま目を見開いて、頬を紅潮させることだろう。その顔を絶対に見たかった。
 だからがんばった。全神経を集中させ、脳が「動いてもいいよ」と体に指示を出すように仕向けた。意志の力は絶大だ。かくして俺の腕には力が漲り、寝転がっているソファーの座面を掴むと、一気にがばりと上半身を持ち上げた。
 そして自らの下半身を見た。
 そこに広がっていた情景に、俺は驚愕した。
 妹はソファーの隅にしゃがんで、その手にはプリン・ア・ラ・モードの乗った皿とスプーンが握られていた。俺が起き上がったのに気づいた妹は、プリン・ア・ラ・モードから俺の顔へと視線を移した。その口の端にはホイップクリームがまつわりついている。
「…………な、なんて」
 なんてプリン・ア・ラ・モードをエロっちく食べるんだ、俺の妹は。
「あ、お兄ちゃん、起きたの。だいじょうぶ?」
 あっけらかんとした口調で妹は訊ねる。
「あ、ああ……」
 俺は急な動きと精神的なショックで再び頭がくらくらするのを、必死に落ち着かせながら返事をした。
 モーニングキャンディじゃなかった。
 でも、それじゃあ下半身に感じていた刺激の正体はいったいなんだったというのか?
 俺は視線を下げて、腐肉を確認した。そこには倒れる前のまま、ペニスケースが装着されていた。
 そうか。謎はすべてとけた。
 もともと瓢箪であるペニスケースが、俺の勃起した腐肉から放たれた蒸気で膨張し、そのあと血の気が引いて卒倒したことで急速に冷やされ、ペニスケース本体が収縮すると同時に、蒸気が凝結して水滴となって腐肉にまぶされたことにより、疑似的なフェラチオの快感がもたらされたということだったのだ。ババーン!

つづく