ブログクロス連載小説「俺と涼花」第3回

 
 中身がぎっちりと詰まった状態になったペニスケースは、俺の腐肉とペニスケースの素材である瓢箪が密着して、すっかりその温度を同じゅうし、もはやひとつの塊と化していた。
 それへ妹は体を寄せ、その両の手のひらですがりつくように円筒を包み込むのに加え、吐息がかかるほど顔を近づけているのだった。これが裸の腐肉であれば、まさか妹もそんな真似はしなかったろう。しかし腐肉はいま、美麗な装飾を施された瓢箪によって覆われているために、妹は自分の行為の異様さに気づけない。
 加工された瓢箪は硬くて頑丈な質感だが、しかしその外殻はわずか3ミリメートルほどの厚みしかない。もちろんそれは0,02ミリメートルなどといった、現代技術の粋を集めた避妊具とは比べ物にならない厚みではあるけれど、しかしこうして妹がそれを抵抗なく掴み、そして自分は「掴まれている感覚」を得ていることを思えば、それは絶妙すぎるほどに絶妙な厚みといえるのかもしれなかった。
「はあ、安心……」
 我を忘れた自分の演奏が俺の腐肉を痛めつけたとすっかり勘違いした妹は、それを鷹揚に許してみせた兄の姿に、すっかり心を解かしたようだ。ペニスケースに無邪気に指を這わせながら、もとい指を這わすことでリラックスするかのような様子を見せる妹に、俺は言い知れぬ背徳感を覚え、ふつふつ湧きたつゾワリとした快楽はまたしても腐肉に血液を供給するのだった。もはやここには勃起の永久機関が完成しているのかもしれないとさえ思った。
「ごめんな、涼花」
「なにが? どうしてお兄ちゃんが謝るの?」
「ほら、俺がちんぽこを、ほら……、そうしちゃったせいで、ペニスケース、涼花の好きな音じゃなくなっちゃっただろ。だから、ごめんな」
「……ううん。お兄ちゃんが謝ることじゃないよ。わたしこそ、本当にごめんなさい」
 妹はそこまでいうと、目線を俺からペニスケースへと下げた。
「あのね、実は最近、吹奏楽の演奏がちょっとつまらなくなってきてたんだ」
「……えっ?」
「カホン叩きながら、なんでカホンなんか叩いてるんだろう、とか思っちゃって、ぜんぜん愉しくないっていうか、気持ちがどっか行っちゃってたんだよね」
「……そうなのか」
「でもね、さっきお兄ちゃんのペニスケース叩いてたとき、初めてカホンを叩いたときの気持ちを思い出したの! そうだ、わたしは叩いて音を出すのが好きだったんだ、自分の手のひらで音を出すのってこんなに愉しかったんだって!」
 いいながら妹の手には力が入った。瓢箪が圧し潰されるはずはなかったが、ペニスケースと同化した腐肉にもたしかな圧力を感じた。
「……それで、ちょっと調子に乗りすぎちゃった。ちんぽこ、デリケートなのに乱暴に扱っちゃった。ごめんね、もうしないから、許してね、お兄ちゃん」
 腐肉をいたわろうとしているのか、妹はソフトタッチでペニスケースの表面を撫ぜる。3ミリメートルの障壁など物ともせず、そのいじましい感触は腐肉に楽々と到達した。
「……いい」
「いい?」
「いいよ。いくらでも叩きゃいい。涼花が叩いて愉しいんなら、俺はいくらでも叩かれるよ。俺のちんぽこのことなんか気にすんな。涼花は叩く楽器のことが好きだろ? 嫌いだから叩くんじゃない、好きだから叩くんだろ?」
 涼花はコクリとうなずく。
「じゃあ叩け。涼花がペニスケースごと俺のちんぽこを好きになってくれるなら、俺も嬉しい。俺はやっぱり、好きなことを愉しそうにしている涼花でずっといてほしいからさ。そんな涼花をこんな特等席で見られるんなら、ちんぽこなんてどうなってもいいさ」
「……お兄ちゃん」
 こちらを見上げる妹の瞳には、きらめくものが浮かんでいた。
 妹がカホンの演奏で悩んでいたなんて、ぜんぜん知らなかった。気づいてやれていなかった。これまで部屋で練習しているところを、ちょっと嫌がられながらたまに見学したりしていたが、そのときも音色のことなんか気にせず(俺にカホンの音の良し悪しを判断する素養はない)、ホットパンツでカホンに跨る妹の股間をひたすらに眺めるばかりだった。妹は家では冬のよほど寒い日を除いてホットパンツで過す。しかもそれがパイル地のわりとダボッと穿くタイプのものであるため、レッグホールから簡単にその奥部が覗け、その日その日の妹の気分なのだろう、色とりどりのショーツがそのつど俺の目を愉しませた。俺にとってカホンは「妹のショーツ見られるマシーン」でしかなかった。その頭文字をとって、俺はカホンのことを「いしょみま」と呼んでいた。だから妹のスランプになんてまるで思い至らなかった。
「えへへ、ありがと、お兄ちゃん」
 妹はそこでようやく笑った。目が細められて、その瞬間に両方の眼からひと雫ずつ涙がこぼれ落ちた。
 妹の右目から放たれた分泌液は俺の左の陰嚢へ、妹の左目から放たれた分泌液は俺の右の陰嚢へ、それぞれ落下し、爆ぜた。

つづく