嘴亭萌え狼らくご「エッチ」

<鑑賞>
 下杉立也と数也は双子。その隣に住む深倉東と西も双子。そんな4人は幼なじみで、仲良くいつも一緒。そして元気であった。ある日4人の元気に手を焼いた親たちは、両家の間に共同出費で子どもたちの家を建てた。そこで繰り広げられるドロドロのセックス劇。立也と東が、数也と西がそれぞれカップルということになっていたが、青い性欲を前にそんな建前は関係ない。気の向いたときに気の向いた棒を気の向いた穴に入れるような性の放埓。「めざせ立っちゃん交しえん」「東はゲームの娼嬪じゃないんだぞ」「こんなときやさしい女の子ならだまってやさしくお掃除フェラするんじゃないか……」でもそんな日々は急に終焉を迎える。数也の突然の死。残された3人は、それぞれの心の間隙を埋め合うように、やはりセックスに勤しむのだった。東から昇って西に沈む、立也の陽根。数也みたいに数はこなせないけど、その分だけ行為中の立ち振舞いには定評がある立也。どうすれば東と西を同時に悦ばせられるか苦悩した立也は、押入れの整理の際に発見した、先祖の残した古文書に記されていた秘技、『星屑ロンリネス』を発動させ、東西同時絶頂を実現させる。そして最後は亡き弟の悲願であった、男の潮噴きを達成させるのだった……。

<解説>
 嘴亭萌え狼、55歳の作。4人の少年少女が織り成すハートフルエロスフルストーリー。乱交を落語で表現する際に、上手(かみて)と下手(しもて)をいかに表現するか、というのがこの時代の萌え狼の課題で、普通に考えれば正常位や後背位など、男性が攻めている際は男性が上手、女性が下手、逆に騎乗位などで女性が主導権を握っている際は女性が上手、男性が下手、ということになるが、萌え狼はこれをあえて逆にした。それによってグッとテーマに深みを出すことに成功した。つまりフェラチオをしている際は男性が上手、イラマチオをしている際は女性が上手ということになる。それは一見まちがいのように思え、そのため若い落語家がこの噺を高座にかける際、これを逆にする姿がたまに見受けられるが、これは観ていていかにも味わいが薄い。そんな場面にまみえるたびに、ひるがえって萌え狼の企みの卓越に改めて舌を巻くものである。